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カブドットコム証券の「調査報告書」についての一考察

2009年09月06日
カブドットコム証券の社外取締役を辞任された公認会計士の磯崎哲也さんのisologueはもちろん、CFOのための最新情報法務の国のろじゃあなどで話題となっている、同社元社員によるインサイダー取引に関する調査報告書(コレ)について、私も思うところを書いてみたいと思います。


この調査報告書自体は今年の7月17日にリリースされたもので、私はその際にざっと目を通したのですが、何人かの方が指摘されているように、論理の飛躍が目につくものであるという印象を受けました。


この調査報告書は久保利英明弁護士という、著名な弁護士を委員長とする特別調査委員会の手によるものです。
調査報告の目的は、以下のように記載されています。

①本件インサイダー取引に係る事実関係の徹底調査、②当社の情報セキュリティ態勢、コンプライアンス態勢及びその他内部管理態勢の検証、③抜本的再発防止策の提言等



上記目的のうち、①は確かにある程度の深度まで調査がなされており、目的を達成できているのではないかと思います。
しかし②のうちの「検証」と、③の「提言等」については、論理構造がお粗末であるとの印象を拭えません。

特に「報告書」の29ページ以降を読んで頂けるとよくわかるのですが、「原因」と「結果」の因果関係の認定が非常に雑であり、社員の一部の意見や、印象を原因として確定したうえで、話が進んでしまっています。

以下、少々長くなってしまうのですが、調査報告書から引用します。

繰り返し指摘したように、本件インサイダー取引は、齋藤社長の個性に根ざした経営手法に起因したものである。ワンフロア・オープンスペース体制、過度な情報共有、メール文化、役職員に対する過剰な精神的コントロール、試験偏重の形式的な人事考課など、齋藤社長の経営手法にはいくつもの特異性が認められる。創業当初のITベンチャー企業であればともかく、当社は、れっきとした上場会社であり、しかも第一種金融商品取引業(証券業)という厳しい監督に服する会社である。その点からすれば、齋藤社長の経営手法には随所で限界が見え始めている。したがって、こうした状況を打破するためには、当面齋藤氏が社長を努めるとしても、なによりもまず齋藤社長自身がこの限界を意識し、「齋藤商店」という個人商店的な色彩を払拭する改革を断行することが強く求められる。
また、齋藤社長の経営手法は、美大出身であることが影響しているのか、形式(デザイン)偏重型であって、そのことが実質を軽視する傾向を生んできた。ワンフロア・オープンスペース体制や委員間設置会社へのこだわりなどが、その例として挙げられる。その結果、外形的には組織が整っているように見えるが、その実質は、「組織」による管理というよりは、齋藤社長という「個人」による管理に陥っていた。しかし、いくら稀有な能力の持ち主であっても、個人の能力には限りがある以上、このままでは業容の拡大や企業の健全な成長は望めない。仮に、経営手法を変えることなく業容を拡大しようとすれば、今回以上の不祥事を誘発する危険性があることは、火を見るより明らかである。したがって、齋藤社長には、この点を十分に自覚し、実質を重視した着実な経営へと転換することが強く期待される。




調査委員会の委員長である久保利英明氏は弁護士であることから、当然、因果関係の認定の難しさというものは熟知されているものと思います。
民法上、不法行為などにおける被害者の立証責任をある程度軽減する必要性から、条件説や相当因果関係説といったような因果関係認定のプロセスは、いわゆるクリティカル・シンキングといった分野で学ぶ社会心理学上の因果関係の認定に比して、やや緩和されているように個人的には感じています。
しかし、今回の調査報告の目的は被害者救済ではなく、「調査」「検証」「提言」なのであるから、因果関係の認定にあたっては、より厳密に行う必要があったと思います。

社会心理学上の因果関係というのは、
①共変関係の有無
②原因が結果よりも時間的に先にあること
③第3因子の不存在
を検証したうえで、因果関係を確定します。

しかし、たとえば上記引用中、「齋藤社長の経営手法は、美大出身であることが影響しているのか、形式(デザイン)偏重型であって、そのことが実質を軽視する傾向を生んできた。」などという記載は、因果関係を雑に認定している最たるものです。
前記した因果関係認定の3つのプロセスにあてはめてみても、美大出身は形式偏重であるという共変関係は証明されていないだろうし、仮に齋藤社長が形式偏重型で実質軽視をする方であったとしても、美大出身という事実以前からそのような性質を持っていたかもしれません(時間的先後関係)。
さらにいえば、美大出身であったから形式偏重であったのではなく、従業員が気持ちよく働けるように形式を工夫していたのかも知れません(第3因子)

この一文だけを検討してみても、調査委員会の報告書は事実調査という意味では一定の価値を持つものと思いますが、原因の検証や改善の提案(改善の提案は原因の検証と表裏一体である)の側面においては、殆ど価値のないもの、むしろ誤解を招くような偏ったものに仕上がっていると考えます。

私はカブドットコム証券の齋藤社長を存じ上げません。しかし久保利弁護士の著書等はいくつか拝読したことがあり、優れた法律実務家であると認識しています。
しかし、このようなバイアスのかかったマスコミのような報告書を提出されたことには少々失望しております。
また、社外取締役である磯崎哲也公認会計士の辞任に、この報告書が影響しているとすれば、非常に残念です。
確かに、起業してから大企業になるまでには、異なるタイプの経営者に切り替わっていく段階が必要なのかも知れません(ビル・ゲイツのような例外もありますが)。
しかし、調査委員会が明確な因果関係もないまま社長の性質に原因を帰属し、そのようなことに口出しするのはいかがなものかな、と思います。


以上、ここ1ヶ月ほどぼんやりと感じていたことをまとめてみました。







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Comment
No title
クリティカルシンキングですね。私も当ブログで拝見して2冊とも借りて読んでみましたが、いやはや早速身についていおり、すごいですね。読んで以来、感銘を受けてはいるんですが、実践として書かれた内容を行っているかというと、なかなか難しいと感じております。当報告書については、私自身も読んでみてかなり主観が強いなぁ、と感じていたのですが、従業員への聞き込みの結果がかなり強烈に印象づけられ、これをでっちあげて作ったということはないだろう、と感じ、強引な報告結果も何となしに事実と受けとめておりました。
アラサー法務さんへ
アラサー法務さん、お久しぶりです。
確かに「でっちあげ」ということはないのだろうと思います。
でも、アンケートの形式も、経営陣に対する不満があるような回答へ導かれがちな設問でしたし、事実と意見の峻別もあいまいな印象を受けました。
弁護士という立場からは、ガバナンスや内部統制に関する客観的な検証に留めておくべきだったのではないかと思います。

ところで、私のブログの影響でクリティカルシンキングを読まれたとのこと、多少なりともお役に立てたのなら、本当に嬉しいことです。
今後もちょくちょく遊びに来てください。

ではでは。

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