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「コーポレート・ガバナンス」久保克行

2010年08月28日
コーポレート・ガバナンス 経営者の交代と報酬はどうあるべきかコーポレート・ガバナンス 経営者の交代と報酬はどうあるべきか
(2010/01/21)
久保 克行

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サブタイトルにもあるように、コーポレート・ガバナンスを主に「経営者の交代と報酬」という切り口から語った一冊です。
先日ご紹介した伊丹敬之先生の「日本型コーポレートガバナンス―従業員主権企業の論理と改革」は、戦後から2000年当時までの日本企業の状況と、会社法(正確には商法中、いわゆる「会社法」とよばれていた部分)を分析し、新しいコーポレートガバナンスのあり方を具体的な制度にまで落とし込んで提案するものでありました。
そこでのポイントは「主権論」、つまり会社の主権者は誰か、ということをきちんと議論してはじめて、「メカニズム論」、どのようにしてガバナンスを行うか、ということを議論することができるというものでした。

今日ご紹介する久保先生の一冊は、現行の制度下においていかにコーポレート・ガバナンスを機能させるか、という視点から書かれています。
つまり、株主主権を前提としていると考えられる現行会社法のもとで、どのようなメカニズムを組み立てるか、というところからスタートしています。
そしてご自身や先人の行ったデータ分析を基に、「経営者の交代と報酬」によって、コーポレートガバナンスを機能させることを提案されています。

ところでこの本、タイトルから受ける印象とは異なり、会社法や経営に関する知識があまりない方でも、「ふむふむ」と読めてしまうのではないかと思える、非常に親切な仕上がりとなっています。
「難しい話をやさしく書く」ということに著者が砕身されたのだろうと思います。


さて、まず目次を引用してみます。


第1章 なぜコーポレート・ガバナンスが問題なのか
1 世界経済危機から考えるアメリカ型企業システム
2 所有と経営が分離している理由
3 経営者を規律づける監視メカニズム
4 データの制約について

第2章 社長交代の是非と後任選び
1 経営者の交代はどの程度必要か
2 市場の動きから見る社長交代
3 経営者の交代確率とその理由―誰から誰に引き継がれるのか
4 業績の悪い経営者は本当に交代しているのか
5 社長交代の業績比較―誰に代わるのが良いのか
6 良い経営者を選抜し、悪い経営者を排除するには

第3章 経営者は十分なインセンティブを与えられていない
1 経営者の報酬を探る
2 役員報酬の実態
3 経営者にも成果主義を
4 業績と報酬の関係はアメリカと比べて非常に小さい
5 海外の経営者報酬
6 望ましい経営者インセンティブとは

第4章 取締役会改革で業績を向上させる
1 取締役会は経営を監視しているか
2 取締役会の現状を数値で検証する
3 取締役会は業績向上に貢献するのか?
4 取締役会改革が必要な企業
5 銀行派遣取締役の役割と効果
6 取締役会改革を進めよ

第5章 企業は誰のものか
1 「日本の会社」は誰のために経営されてきたか
2 企業が危機にあるときに削減するのは雇用か配当か
3 会社は誰のものである「べき」か
4 経営者を規律づける最もよい方法



上でご紹介した伊丹先生の著書は、「従業員主権企業」という言葉がサブタイトルに含まれることから想像できるように、ドイツを中心とした欧州企業の事例が多く紹介されています。
翻って本書は、「経営者の報酬」というテーマや上記の目次をごらん頂くとおわかりになるように、米英企業の事例が多く紹介されています。
現在の日本における「独立役員」「社外取締役」「委員会設置会社」「従業員選任監査役」などの話題は、欧州や米英の制度をごちゃまぜにして引っぱってきている感が強いので、両方の事情を知っておくと理解が促進されるのではないかと思います。

まず、本書において久保先生は、「コーポレート・ガバナンス」を次のように説明します。


組織が成功するためには有能なリーダーが必要であろう。そして選任したリーダーに適切な目標とインセンティブを与えること、さらに、リーダーは期待された業績が達成できない場合には解任することが不可欠である。このようなメカニズムは、現在日本の企業でどの程度機能しているのだろうか。また、企業の成功・失敗とこのような経営者に対する監視メカニズムにはどのような関係があるのだろうか。これらの問題を考えるのがコーポレート・ガバナンスである。



そして、コーポレート・ガバナンスに関して重要なことは、

①経営者の交代
②金銭的なインセンティブ

という「二つの単純なメカニズム」であると主張されています。
ここでは「会社は株主のもの」ということが、とりあえずの前提となっています。


さて上記の、コーポレート・ガバナンスに関して重要な「二つの単純なメカニズム」についてですが、

日本の大企業では、業績と社長交代の関係は非常に弱いことがデータ分析の結果、確認できた。具体的には、ROAが8.08%下落したとしても、社長が交代する確率はわずか4.77%しか上昇しない。



経営者が企業業績を向上させるインセンティブを持つためには、経営者の所得と企業の業績の関係が強いことが望ましい。この観点からみると、日本の大企業の経営者は十分なインセンティブを持っていない。データ分析の結果、企業の業績が著しく向上しても、著しく劣化しても、経営者の所得はほとんど変化しないことが示された。



と、いずれも日本の大企業では「二つの単純なメカニズム」が機能していないことを指摘されています。
そして取締役会の改革を進めることによって、これらの現象の根本にある問題を解決することを提案されています。
特に後者、「金銭的なインセンティブ」については以下のような主張が興味深いところです。


所有と経営を分離させた状態で経営者の努力をコントロールする手段として、経営者の金銭的なインセンティブが重要となる。
(中略)
アメリカの経営者の報酬がストック・オプションなどを通じて巨額であることは良く知られている。このような巨額な報酬は、アメリカでも激しい批判を浴びているが、コーポレート・ガバナンスの観点からは、多額のストック・オプションを付与することは、必ずしも悪いとはいえない。
(中略)
役員報酬が適切かどうかを判断する一番の基準は、「いくらもらっているか」ではなく、「業績の変化に応じて変化するかどうか」である。


(強調部は私によるものです)

もちろんここで、「短期的な業績を重視し過ぎる弊害」を考慮する必要はあるでしょうが、確かにもっともな主張だと思います。
今年(2010年)3月31日決算の会社から、1億円以上の役員報酬を受けている場合は開示が要請されるようになりました。
色々な意味で批判の多いこの制度ですが、1億円という基準は別として、役員報酬の開示自体は、上記のような考えからすると確かに有益なものかも知れません。

最後に、「企業は誰のものか」という問いに対する著者の回答を引用したいと思います。


いわゆるステークホルダー論を実現することは容易ではないことがわかる。従業員と株主に加えて、取引先など他の利害関係者の利害もすべて考慮する形で経営することは望ましいが、実現が著しく困難である。「企業の目的は株主価値を最大化することである」と規定することで、これらの困難は克服することができる。すなわち、株主価値を向上させる経営者が良い経営者であり、経営者が株主価値を最大化するための規律づけのメカニズムも存在する。これらのことから、株主価値を最大化することが、ファースト・ベストではないが、セカンド・ベストであると考えることができる。



最終章でさらりと、「従業員代表を取締役会に送り込むことに対する著者の意見」が、日本の労働市場の問題と併せて述べられているのも興味深いところ。

コーポレート・ガバナンスを考える際には、是非読んでおきたい一冊です。


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