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これはオススメ!遠藤周作が語る「文章術」

2010年08月29日
十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。 (新潮文庫)十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。 (新潮文庫)
(2009/08/28)
遠藤 周作

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このタイトル、キャッチフレーズとしても秀逸です。

「十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。」

タイトルからは何の本だかさっぱりわかりませんが、「そこまで言うんだったら買ってみよう」と思わずにはいられない不思議な力のある言葉です。
最近の「タイトルで煽るビジネス書」とは、言葉の切れ味が違います。

さて、かくいう私も1年近く前でしょうか。
書原という、このBlogにもちょくちょく登場する本屋さんで、レジ横に置いてあったこの本のタイトルを見て、2秒後には「あっ、これも下さい」と、精算中の本の山に追加してしまいました。
この本をレジ横に置く書原さんの売り方もうまいなあ、と感心したものです。


ところで買ってはみたものの、相変わらず何の本かはさっぱりわからず。
キン肉マンの終わりの歌で、


ヘのつっぱりはいらんですよ。


というキン肉マンに対して、


言葉の意味はよくわからんが、とにかくすごい自信だ。


と委員長が返すやり取りがありましたが、それを思い出しました。

そしてしばらく放置していましたが、最近ようやく読んでみました。
…これは面白い。
「遠藤周作の文章術」とでもいうべき一冊です。

そもそも本書が世に出た経緯は、1960年に書かれた原稿が遠藤周作先生の死後、2006年に発見され、それを書籍化したものだそうです。
2006年の原稿発見時にはちょっとした話題になったそうですが、私は知りませんでした。
少なくとも私のところには関係者から連絡がありませんでした。関係ないので当たり前ですが。


さてこの本、タイトルはまだ決まっていなかったようで、本書の書き出しの言葉である、
「十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。」
という一節がそのままタイトルになったようです。

上に書いたように、「遠藤周作の文章術」というような内容の本書ですが、体裁としては遠藤周作が「手紙の書き方」について面白おかしくまとめたものです。
1960年に書かれているので、当然 e-mail などあろうはずもなく、あくまで「手紙」の書き方について書かれているのですが、本質は同じです。
手紙はもちろん、メールを書くときにも十分参考になる普遍的な「文章術」です。

目次のうち、大項目だけを引用してみます。


序   一寸したことであなたの人生が変る
     ―人生の明暗を分けた、一寸したこと
第一講 筆不精をなおす一寸したこと
     ―筆不精、三つの大きな原因
第二講 手紙を書く時に大切な一寸したこと
     ―手紙の書き方には根本原理がある
第三講 真心を伝える書き出しの一寸したこと
     ―真心を伝えるコツは「相手の身になって」
第四講 返事を書く時に大切な一寸したこと
     ―良い返事は「読む人の心」を考えながら表現するもの
第五講 病人への手紙で大切な一寸したこと
     ―病人宛の手紙は、相手を十分思いやって
第六講 相手の心をキャッチするラブ・レターの一寸したこと(男性篇)
     ―恋人に手紙を書くには―
第七講 彼女に関心を抱かせる恋文の一寸したこと(男性篇)
     ―あなたに関心がない彼女への恋文の書き方
第八講 彼女を上手くデートに誘う一寸したこと(男性篇)
     ―デートを促す、手紙の書き方
第九講 恋愛を断る手紙で大切な一寸したこと(女性篇)
     ―断りの手紙は、正確にハッキリ、誠意をもって
第十講 知人・友人へのお悔やみ状で大切な一寸したこと
     ―相手の孤独感を溶かす、お悔やみ状のもっとも親切な書き方
第十一講 先輩や知人に出す手紙で大切な一寸したこと
      ―一寸した手紙や葉書で人生は大きく変る
最終講 手紙を書く時の文章について、大切な一寸したこと
     ―手紙を書く時の文章で気をつけたいこと



どうでしょう。
目次だけ見ると、昨今のお手軽ビジネス書によくある「文章術」と同じような印象を受けます。
とはいえ、同じようなテーマと目次であっても、そこは遠藤周作先生です。
それはもう、人間に対する洞察力の深さや文章の緻密さなど、「○○が書いた最強の文章術」などというようなものとは、わけが違います。

しかも面白い。
電車の中で読んでいると、不覚にも吹き出してしまうような箇所もちりばめられています。

例えばある架空の(?)学生A君が書いたラブレターを採点するという以下のくだりなどは、少し長いのですが面白いところなので引用してみます。


「拝啓。春日の候、益々、清栄の段、慶賀仕り候。陳者、平生は御無沙汰ばかり申上げ失礼の段、何卒、何卒お許し下され度し御座候。さて今回、悪筆を顧みず書簡をしたためお願い致した度き儀、これ有り候。―即ち、貴嬢来週日曜日、小生と共に喫茶談笑の機会をお与え頂ければ幸甚これに過ぎることなく・・・」

これはダメ。まことに気の毒でしたが第一番目のA君のこの手紙はダメの標本です。これではまるで移転通知か冠婚葬祭の下手な挨拶状。この学生は法科に学ぶ男だったので勢い、ガール・フレンドに出す手紙も区役所の税金督促状のような手紙になってしまったのかもしれん。しれんがこの税金督促状のような手紙をみて―もし、あなたがうら若いお嬢さんなら、心動かされてお茶につき合うだろうかね。「喫茶談笑の機会」など現代の若いお嬢さんを感動さすどころか「この人脳が弱いんじゃない」と失笑の機会を与え、挙句の果ては紙屑籠の中にポイと入れられること必定である。
皆さんのほうは、まさかかかる税金督促状的な手紙を書かれなかったと思いますが、この極端な悪文は次の過ちを犯していること、注意して頂きたい。
①知りもしない候文(そうろうぶん)で書いていること
(以下略)



上記は面白おかしく他人の手紙を採点しているのですが、ちゃんとこの後に、「ではどう書くべきか」という話が続きます。


次に「抑制法」という「文章道の第一原則」については、少し真剣に以下のように説明されています。


「夏のまぶしさや暑さを描くなら光の方から書くな。影の方から書け」
(略)
第一の抑制というのは自分の感情や気持ちを文章の始めから終りまで訴えないことです。
(略)
本当に心にかなしみがあった時に泪もでなくなるという言葉がありますが、我々はそうだと思うのです。感情をあふれさすより、それを抑制して、たった一すじ眼から泪がこぼれる方がはるかにその感情をせつなく表現するものです。



このあたりになると、「さすが大作家」と感心しきりなのですが、以下の「お悔やみ状」について書いている部分などは、遠藤周作ならではという優しさと思いやりの溢れる説明です。


ぼくはこういう場合、相手と同じような悲しみや苦しみをむかし自分が受けなかったかどうかを考えて、その時の思い出などを書くようにしています。
たとえば子供を失った知人には自分がむかし身内を失った時、どういうふうにたちなおろうとしたか、どういうふうにそんな苦しみを受け止めたかを書いてあげるとよいものです。
(略)
実際はどんな人間にも、どんな人生にも似たりよったりの不幸や悲哀が訪れがちなのですが我々はいざ自分がそういう破目になると、急に「自分だけがなぜこんな悲しい目をするのだろう」とか「自分だけが、どうして苦しまなければならぬのだろう」という孤独感に捕らわれるものだからです。
ですから相手のこの孤独感を我々ができるだけ溶かしてあげるのが、お悔み状のもっとも親切な書き方だとぼくは思っています。



さらに引用が続いて申し訳ないのですが、この部分は遠藤周作の考え方がはっきりと述べられていて興味深いところですので、ご容赦を。


「あなただけではなく、自分も同じような悲しみにあった」ことを相手に優しく知らせるのは一種の連帯感を相手に与え、その孤独から救います。
連帯感というようなむつかしい言葉を使いましたが、これはたとえばこんなことです。
病院に入院した人は多かれ少なかれ知っておられるものですが、たとえば手術をした患者の手を看護婦がじっと握ってやると、ふしぎに静かに眠りだすことがよくあるものです。
これは苦痛というものは今、申しあげたように孤独感をひき起こすので、誰かに手を握られているだけでも、彼はその人が自分と苦痛をわけ合ってくれているという安心感がえれれるからなのです。これが人間のもつ連帯感の原型だとぼくは言いたいのです。



解説に書いてあったのですが、本書は遠藤周作が肺結核で入院していた時期に書かれたもののようで、ここでいう「彼」というのは、遠藤周作自身のことを指しているように思えます。


なんだか随分長くなってきたので、この辺にしたいと思いますが、最後に無理やり一言でまとめてみたいと思います。
手紙を含め、誰かに読んでもらう文章を書くには「相手の身になって」書くことが肝要であり、そのためには人間というものを知る必要がある。
このことを、時には面白く時には真剣に語ってくれている本書は、メールを含め毎日文章を書いている現代人にこそ、本当に役に立つ一冊なのではないかと思います。
是非読んでみてください。

ちなみにこのBlogは、「相手の身になって」書かれてはいませんので「ダメの標本」です。
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