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「暴力団排除条例ガイドブック」 ―まさに反社会的勢力排除のバイブル的な一冊

2012年01月09日
Lexis Nexis さんから頂戴しました。ありがとうございます。


暴力団排除条例ガイドブック (BUSINESS LAW JOURNAL BOOKS)暴力団排除条例ガイドブック (BUSINESS LAW JOURNAL BOOKS)
(2011/12/22)
大井哲也、黒川浩一 他

商品詳細を見る


タイトルこそ、「暴力団排除条例ガイドブック」となっていますが、本の帯(amazon のイメージにないのが残念)にあるコピー、"反社会的勢力排除のバイブル"という言葉がピッタリの、まさにバイブル的な一冊です。


私は当初、業務上の必要性から暴排条項を検討するため、反社会的勢力排除に関する書籍や論稿に目を通していたのですが、いつの間にか個人的な興味からBlog記事を多く書いていました。
(ご興味のある方は、本エントリの末尾にリンクをまとめておいたのでご笑覧ください)

そして気づくと自室の本棚には10冊を超える類書が…(笑)
しかし本書は、東京都暴力団排除条例が施行された後に発売された数少ない反社排除に関する本であるとともに、これまでに世に出ている類書のうち最も実践的な一冊と言えるのではないかと思います。
この本を頂いたのは発売されて間もなくだったので、取り急ぎ感想を書こうと思っていたのですが、あまりに面白い内容だったのできっちり細部まで読んでいるうちに、感想を書くのがすっかり遅くなってしまいました。


さて、例によって目次の一部を抜粋します。


第1章 反社会的勢力の侵入手口と企業の対応
Ⅰ 最近の反社会的勢力排除の動向
Ⅱ 企業への反社会的勢力の侵入(関与)事例
Ⅲ 反社会的勢力排除の内部統制システム

第2章 反社会的勢力のチェック方法
Ⅰ どこまでを反社会的勢力とするのか
Ⅱ 反社チェックのポイント

第3章 暴排条項の導入
Ⅰ なぜ暴排条項が必要なのか
Ⅱ 暴排条項導入の留意点
Ⅲ 暴排条項のバリエーション

第4章 契約の拒絶・解除の実務
Ⅰ 契約締結前の取引拒絶
Ⅱ 契約締結後の解除の法的リスク
Ⅲ 既存取引先との関係解消の実務

第5章 海外の反社会的勢力
Ⅰ グローバルな要請に関する最近の動向
Ⅱ 海外反社排除の取り組み方
Ⅲ 海外反社対応のための英文版誓約書・暴排条項

第6章 雇用関係等からの反社会的勢力排除
Ⅰ 従業員に対する属性確認義務
Ⅱ 従業員が反社会的勢力に該当する場合の対応
Ⅲ 業務委託スタッフの場合

第7章 上場審査の実務及び出資者・株主への対応
Ⅰ 上場審査を受ける場合
Ⅱ 反社会的勢力との関係発覚による上場廃止
Ⅲ 出資者・株主への対応

第8章 暴力団排除条例の解説
Ⅰ 条例制定の背景と経緯
Ⅱ 条例の主な規定
Ⅲ 条例制定の狙い
Ⅳ 暴力団に対する利益供与の禁止規定の解説
Ⅴ 暴力団に対する名義貸しの禁止
Ⅵ 暴力団との密接交際
Ⅶ 公共事業からの暴力団排除
Ⅷ 民間事業からの暴力団排除
Ⅸ 不動産取引からの暴力団排除
Ⅹ 暴力団の威力利用そのものの禁止
Ⅺ 福岡県条例の改正
Ⅻ まとめ

資料
各都道府県の暴力団排除条例における特徴的な規定



第2章のうち「反社チェックのポイント」には実に62ページが割かれています。
ここには「最低限必要な取組み」といったことから、反社チェックの深度に応じた調査項目の例、さらにはチェックリストから取引先管理台帳のサンプルまで、これでもかといわんばかりに現場で役立つ情報が紹介されています。
そしてこの「サンプルをバンバン出す」というスタンスは、最後まで貫かれています。

次に第3章の「暴排条項のバリエーション」も、あるべき論に留まらないところがお役立ちです。
最高水準の暴排条項~一般的水準の暴排条項~簡易版の暴排条項、さらに取組みが進んでいる業界の暴排条項例などのサンプルが提示されているので、自社の業種やスタンス、或いは取引の相手方との関係を考慮しながら、自社に最適な暴排条項を考えてみる素材として最適だと思います。
実際に私も自社の暴排条項を、このサンプルを参考に少し修正しました。

さらに第5章、海外の反社会的勢力。ここは私がとても興味をもっているところでもあり、英文版の暴排条項など、他ではなかなかお目にかかれないような書式を見ることができます。
少なくとも私が英文契約書に暴排条項を入れ始めた頃は、日本語の暴排条項を単純に英訳した程度のものしか作れなかったので、「あのときにこんなサンプルがあったらなぁ…」と思わずにはいられません。
もちろんこのサンプルを参考に、早速英文契約書の暴排条項も修正しました。

そして圧巻は、「企業法務戦士の雑感」さんでも触れられていた、巻末資料「各都道府県の暴力団排除条例における特徴的な規定」という、全都道府県の暴排条例の一覧。
単純に資料として興味深いのはもちろん、全国規模で事業を展開されている会社(まぁ、まずほとんどの会社さんが該当するのではないかと思います)の法務担当者としては、都道府県によってそう大きな違いはないとはいえ、特徴のある条例(例えば福岡県)については、概要を知っておく必要があるものと思います。
先日、埼玉県の会社が東京都暴力団排除条例の適用を受けていましたが、つまり「ウチの会社は東京だから東京都の条例だけ見とく」では、ちょっと認識が甘いと言わざるを得ません。


その他にもいろいろと紹介したいところはあるのですが、長くなり過ぎるのでこの辺で。
何はともあれ、現時点で最も実践的な内容の「反社本」として自信を持ってお薦めします。


最後にこれは私見ですが、ある程度の規模の会社であれば何かしらの対応は既にされているものと思います(されていなければ、急ぎ対応する必要があります)。しかしながら会社によっては法務担当者がおらず、総務担当者が片手間に契約書を見ていたりしていて、「暴排条例が施行されたって聞いたけど、何をすればいいのかよくわからない」というケースも多いのではないかと思います。
本書は、そのような方にとっても「バイブル」として十分に活用できる親切な作りになっていると思うので、是非一度手に取って頂ければと思います。


ちなみに本書は、「dtk's blog」さん、「企業法務マンサバイバル」でも紹介されているので、違う切り口の書評も参考にしてみてください。


遅ればせながら、今年もよろしくお願いします。



【過去記事】
暴力団排除条項について考えてみた。(前半戦)
暴力団排除条項について考えてみた。(後半戦)
暴力団排除条項について考えてみた。(延長戦)
反社会的勢力対応のいま ―金融法務事情1901号より
東京都暴力団排除条例の施行と暴排条項 前半戦
東京都暴力団排除条例の施行と暴排条項 後半戦

【おまけ】
府中市暴力団排除条例
第12条が府中市ならではです。
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「クラウドと法」 近藤 浩/松本 慶

2011年12月12日
「企業法務マンサバイバル」のtac さんが10月21日に紹介されて、「dtk's blog」のdtk さんが10月25日に紹介されて、さらに11月1日には「企業法務について」のkata さんが紹介されていたこの本。


クラウドと法 (KINZAIバリュー叢書)クラウドと法 (KINZAIバリュー叢書)
(2011/10)
近藤 浩、松本 慶 他

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今さら何なのですが、コソっと私も感想など書いてみようと思います。
とはいえ既にお三方がそれぞれの視点からレビューされているので、私の感想を読んだからといって何か新しい発見があるわけでもないでしょう。
また、斬新な切り口でブッタ切る、というようなことも私にはできません。
ただ、「面白かったからやっぱ感想を書いとこ」というだけのことです。すみません。


さて、例によって目次の紹介です。
「そんなん、Amazon で見ればいいんじゃね?」という向きもあるかも知れませんが、あえてこの場で「私が紹介したいように」引用するのです。


第1章 はじめに
1 クラウドとは何ですか
2 クラウドの歴史・背景
3 クラウドにはどのような種類がありますか
4 クラウドのメリット・デメリット
5 最近の動き
6 東日本大震災を受けて

第2章 クラウド導入のモデルケース
(略)

第3章 情報セキュリティ
1 情報セキュリティ上、どのような問題がありますか
2 経済産業省のガイドライン
3 事故があったら、クラウドのサービス事業者にどのような責任が発生しますか
4 自己があったら、クラウドサービスを利用する事業者にはどのような責任が発生しますか
5 情報セキュリティ事故の際の取締役の責任

第4章 個人情報保護法等
1 個人情報保護法とはどのような法律でしょうか
(略)

第5章 コーポレートガバナンスとの関係
1 担当者や取締役はどのようなことに気をつければよいでしょうか
(略)
3 クラウドの導入と取締役の責任
4 e文書について

第6章 クラウドの国際性と法
1 外国の公権力によるデータの取得、差止命令など
  (1)米国愛国者法
(2) EUデータ保護指令
2 管轄や準拠法の問題
3 クラウドとeディスカバリ

第7章 知的財産権
1 著作権の問題
2 知的財産権の侵害に基づく差止めの問題
3 いわゆるオープンソースソフトウェア
4 クラウドと営業秘密

第8章 クラウドのサービス事業者との契約
1 クラウドのサービス事業者との契約では、どのようなことに注意すべきでしょうか
2 契約の内容ではどこに注意すればよいでしょうか
(1) SLA
  (2) クラウドのサービス事業者の責任制限
  (3) 情報セキュリティ、秘密保持、プライバシー
  (4) 再委託
  (5) サービス停止時の対応
  (6) 契約終了時のデータの取扱い
  (7) 準拠法
  (8) 管轄
  (9) その他
  (10) 参考となる資料等

第9章 クラウドのサービス事業者のリスクや責任
1 クラウドのサービス事業者に対する規制
  (1) 電気通信事業法
(2) 個人情報保護法
(3) 建築関係
2 クラウドサービスの利用者に対する責任
3 第三者に対する責任
(略)
(3) プロバイダー責任制限法

第10章 大震災とクラウド
(略)

第11章 クラウドの推進へ向かって



思いのほか長くなってしまいました。

しかし上記の目次を眺めてみて、あらためて感じるのはその網羅性の高さ。
tac さんが仰っている、


「~法務パーソンが気付きにくい・忘れがちなリスクがもっとあるんじゃないの?」という不安を抱えている状態だと思います。この本は、その「セキュリティ以外のクラウドリスクいろいろ」に対する不安をもきれいに解消してくれる本なのです。


という指摘に私も同感なのですが、本書を読むことを通じて、自社がクラウドサービスを提供している/提供されている場合に、どのようなことが問題となり得るのか、網羅的に確認することができるのではないかと思います。

そして確認して気になる点があれば、その方面のもう少し詳しい書籍にあたってみる、という利用の仕方が最適なのではないかと思います。

つまり法務担当者にとっては、法務業務とクラウドの関わりについての入門書として最適ですし、経営者やシステム担当の方などにとっては、クラウドに関する法律を概観するために最適な一冊といえるのではないでしょうか。


ところで先日ご紹介した本田直之さんの本でも「クラウドの有効活用法」というべきものにかなり紙幅がとられていましたが、どうも「クラウド」という言葉の輪郭がぼんやりしていて、個人レベルで利用するメールサービスから会社の業務フローシステムまでをまとめて論じられることにちょっとした違和感を感じていました。

この点に関して本書は、ターゲットが企業(法務)ということが明確ですので、そのような違和感はあまり感じずに済みました。
著者が弁護士ということもあり、第1章で「クラウド」の定義をいくつか紹介したうえで、


共有化されたコンピュータリソース(サーバ、ストレージ、アプリケーション等)について、利用者の要求に応じて適宜・適切に配分し、ネットワークを通じて提供することを可能とする情報処理形態


という経済産業省の定義を採用することがはじめに宣言されています。
やはりこのあたりを押さえておいてもらえると安心しますね。

とはいえやはり、まだまだ「クラウド」というと、kata さんが指摘されるように、


クラウドは、海外のデータセンターに情報を預けることとイコールではないし、(略)海外のデータセンターに情報を預けることで発生するリスクを「クラウドのリスク」ということには強烈な違和感を覚える


というような点で、やはり輪郭がぼんやりしてしまう点は見受けられます。
また、


クラウドのサービス事業者は、IT業界の大手で、技術力も高いと考えられます。


という本文の記載からも、「日本の小さなクラウドサービス事業者は想定していないのか?」とちょっと戸惑ったりもしました。

とはいえ、クラウドサービスを提供する企業/提供される企業それぞれにとって、この一冊を取っ掛かりに「どのようなリスクが考えられるのか」を見直してみることは、とても有用だと思います。

さらに契約を締結する段階で確認・検討すべき事項もある程度の網羅性をもって記されているので、一度はここにも目を通しておきたいところです。


そのようなわけで、予告通り何ら新しい視点はないのですが、感想を書いてみました。
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「ホウレンソウはいらない!」 本田直之

2011年12月02日

ホウレンソウはいらない!―ガラパゴス上司にならないための10の法則ホウレンソウはいらない!―ガラパゴス上司にならないための10の法則
(2011/11/10)
本田 直之

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何だか久しぶりに本田直之さんの本を読んだように思います。
相変わらず「スー」っと読めてしまう、読みやすい文体・リズムで書かれているので、ついつい「スー」っと読み飛ばしてしまいそうになります。

ここ数年、「仕事術」といった類の本は全く読まなくなっていたのですが、「あっ、本田直之さんの本が出てる」と、本屋で何気なく手に取ってパラパラと眺めていたところ、

契約書管理

という項目が目にとまり、「法務担当者としては読まざるを得ないだろう」と思い、買ってみた次第です。


さて、例によって目次の一部を抜粋したいと思います。


CHAPTER1 ガラパゴスマネージャーになるな!
コミュニケーションギャップ
ITの進化

CHAPTER2 変化の時代―マネージャーのサバイバル・スキル
1 非クリエイティブ仕事術
2 コミュニケーション術
3 IT活用術

CHAPTER3 フレームワーク仕事術への進化

CHAPTER4 フレームワーク仕事術のメリット
1 チームマネジメント力がアップする
2 進捗管理(フレームワーク化)が簡単になる
3 ノウハウ蓄積が容易にできる
4 効率化が進む

CHAPTER5 クラウドでフレームワークを実践する
1 クレーム処理
2 商談進捗管理
3 契約書管理
4 チームでの制作物作成
5 イベントのToDoリスト
6 問題解決データベース

本書で挙げた仕事の問題を解決するためのソフトウェア&システム
ガラパゴス上司になるための10の法則



本書の特色は、「CHAPTER5 クラウドでフレームワークを実践する」にあるかと思いますし、CHAPTER4までの記述もそこに行きつくための布石であるように見受けられます。

そのCHAPTER5では、6つの「仕事の問題」が挙げられていて、それを解決するための「クラウドサービスの活用例」といったものが紹介されています。
しかしこの部分は、人によって、あるいは状況によっては何らかのヒントが得られるかも知れませんが、かなり唐突な印象を受けました。
「そんな活用例を挙げられても、業務フローの変更を伴うクラウドサービスの導入を、たいていの会社ではそう簡単に決められないぞ」という、違和感のようなものです。
またCHAPTER5の後に続く、「本書で挙げた仕事の問題を解決するためのソフトウェア&システム」というところで、いくつかのソフトウェアが紹介されているので、「ああ、ちゃんと親切に紹介してくれているんだな」と、ちょっと安心するのですが、実際に紹介されているのはプロジェクト管理のためのソフトウェアやサイボウズといったグループウェアで、ある程度の規模の会社になると、気軽に導入するわけにもいかないのではないかと思います。

また、6つの問題を解決するためのクラウドサービスの活用例は、それぞれ自社にとって使いやすいようにカスタマイズされたものが前提になっているようですが、それであれば紹介されているようなソフトウェアではなく、何かしら開発作業の発生するソフトウェアが必要になってくるのではないかと思い、「いっそのことAccessで作っちゃったほうが安くて早いんではないだろうか」と思ったりします。
(もちろん考え方や利用法は十分参考になるとは思います)

そのようなわけで、契約書管理の項目も、残念ながら法務担当者の視点からすると「うーん」と首をかしげざるを得ない内容でした。(残念!)


しかし、

そこは本田直之さん。
CHAPTER5のおかげで、本書のターゲットが今一つよくわからないことになってしまっているものの、そこに至るまでの内容はやはりなかなか面白いものです。

30代から40代のプレイングマネージャー(私もそう)が、いかに効率的にチームを動かし、よりクリエイティブな仕事に取り組む時間を確保するか、ということについて、ITの活用という切り口から述べられています。
この点は私も「いかにして考える時間を確保するか」ということを常に意識しているだけに、とても興味深いものでした。
さらには、ほんの数年前までは効率的なITの活用法として認識されていたものが、既に陳腐化しているのだよ、ということを教えてくれています。
このような記述をヒントに、自分の頭で考えたり試したりしていくことが必要なのだと思います。

そういえば、
なぜか、「仕事がうまくいく人」の習慣 4.0
では、
「仕事の効率を上げるための仕事に取り組もう」
と、定期的に自分の仕事のやり方を改善する時間を設けることの必要性が提唱されていましたが、やはり「これでOK」と安心しきることなく、個人レベルでも組織レベルでも、不断の業務改善を続けていくことがいかに重要であるか、ということを再認識した次第です。
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「IT社会の経済学」青木理音

2011年10月28日
「経済学101」(既存のエントリーは「経済学101」ではなく、"rionaoki.net"に残されています)の青木理音さん(@rionaoki)の新著。



上記Blog「経済学101」(現在は"rionaoki.net")から、テーマごとに面白い記事をピックアップして、一冊の本にされたものです。

テーマは下記のとおり(章立てのみ抜粋)


第1章 IT企業の動向
第2章 ソーシャルメディア
第3章 新聞・放送・出版
第4章 日本・教育・日米比較


このようなホットなテーマについて、主にアメリカのニュースやBlog記事などを紹介しながら、それを経済学的な観点から「斬る」というスタイルの一冊です。
この「斬る」という言葉は、いかにも使い古された表現ではありますが、本書での青木理音さんは、ほかに適当な言葉が見当たらないほど、切れ味鋭く徹底的に斬っていらっしゃいます。
また、この小気味よいまでの斬り具合が、理音さんならではの持ち味でもあるのでしょう。読んでいて気持ちがよいです。

さて、先に「経済学的な観点から」と書きましたが、そう大上段に構えたものでもないので、おそらく大抵の方は何ら抵抗なく読み進められるのではないでしょうか。
というのも、専門用語には一つ一つ丁寧に注釈がついていますし、そもそも表現がわかりやすいので、「経済学はちょっと・・・」と躊躇する向きにも、お薦めできる一冊だと思っています。
とはいえ、平易な表現で、かつ端的に述べられているだけに、行間を読めるかどうかによって、読み手にとってのこの本の価値というものに違いが出てくるだろうとは思います。

また、「IT社会の」とタイトルに付いているだけあって、ここ2年ほどのアメリカにおけるIT企業やSNSの動向なども知ることができ、私にとってはこの辺りも非常に興味深いところでした。


しかし私が最も興味深く読んだエントリーの一つが、既存の出版業界と電子書籍に関する「衰退産業が持ち出す文化議論」というもの。
一部引用したいと思います。


ではなぜ今になって出版業界は文化について論じ始めたのか。これは業界を保護してもらう口実だ。それも、「出版」ではなく「業界」であることがポイントだ。「出版」を守るためなら出版「業界」を守る必要はない。日本の農業や林業を守るために既存の業界における「文化」を保護する必要がないのと同じだ。だから、農業・林業保護の議論に株式会社導入は表立って出てこない。
(中略)
一産業が自分たちのやっていることは文化だと言い出すとき、その業界は回復の見込みがない程に衰退へと向かっている。


このエントリーは2010年2月4日付のものですが、今まさに日本において議論されていることが頭に浮かびます。


というわけで、IT、経済学、出版といったものの「いま」を知るためにも、是非一読頂きたい一冊です。
※ちなみに著作権に関する記述も多いのですが、日本とアメリカの著作権制度を厳密に区別して記載されていないので、そのあたりは読み手の方で理解しておく必要があるかと思います。


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「コーポレート・ガバナンスの経営学」 加護野忠男・砂川伸幸・吉村典久

2011年10月10日
コーポレート・ガバナンスの経営学 -- 会社統治の新しいパラダイムコーポレート・ガバナンスの経営学 -- 会社統治の新しいパラダイム
(2010/03/31)
加護野 忠男、砂川 伸幸 他

商品詳細を見る


コーポレート・ガバナンスについては、このBlogでも過去に何度か本を紹介してきました。
今回ご紹介する一冊は、そのコーポレート・ガバナンスの「はじめの一冊」としてとてもよいのではないかと思います。
ただし第11章を除いて、という留保付きですが。


さて、例によって章立てから。


序章 経営学から論ずるコーポレート・ガバナンス論/会社統治論
第1章 株式会社と会社統治論
第2章 株式会社の仕組みと会社統治
第3章 アングロサクソン型の会社統治 ―米国を中心に
第4章 ライン型の会社統治 ―日本を中心に
第5章 日本の会社統治の過去
第6章 日本の会社統治の現在 ―日本が間違った時代
第7章 コーポレート・ガバナンスと資本コスト
第8章 コーポレート・ガバナンスと事業投資
第9章 コーポレート・ガバナンスと資本政策
第10章 日本企業の会社統治のもう一つの姿 ―プレイヤーとしての従業員、親会社
第11章 内部統制と会社統治



ご覧のように、コーポレート・ガバナンスの全体像から入り、アメリカを中心とした「アングロサクソン型」のコーポレート・ガバナンス、日本を中心とした「ライン型」のコーポレート・ガバナンス、そしてその日本のコーポレート・ガバナンスについて、過去から現在に至るまでの流れを俯瞰できるという点が、上述したように「はじめの一冊」として適当なのではないかと思う理由です。
これらの点をおさえておけば、昨今のコーポレート・ガバナンスに関する議論の理解がずいぶん促進されるのではないかと思います。


ちなみに第7章から第9章はやや毛色が異なり、ファイナンスとコーポレート・ガバナンスの話題が中心となりますが、コーポレート・ガバナンスを根本的な部分から考えるには、最低限の財務知識はやはり必要だということでしょう。


そして第10章では、最近とみに話題にされることの多くなった、ドイツの共同決定法を中心とした従業員による経営者への牽制や、親会社による経営者への牽制に関しても触れられています。この部分についても本書は、とても丁寧にわかりやすく説明してくれているので参考になるものと思います。
ところで個人的には第6章で採り上げられている、フランスのコーポレート・ガバナンスに関する話が、目新しく、また興味深いところでしたので、少し引用したいと思います。


このように他国同様、1990年代になって会社統治(管理者注:本書ではコーポレート・ガバナンスを「会社統治」と訳しています)改革の必要性に迫られたフランス企業であったが、改革を現実に進展させるにあたっては、統治改革それ自体はフランス経済全体の成長・競争力向上を後押しするための道具に過ぎず、あくまでもフランスに根づいている価値観を基盤として、これと整合的な仕組みを導入することなくして意味のある改革はなしえないとの認識が共有されていた。それゆえ、弱点とされた経営を監視する仕組みの形骸化については、いわゆる「米国流」の改革例を一部模範とすることで仕組みの強化を図りつつ、あくまでも、フランスにあった会社統治に関わる基本的な価値観、たとえば国家経済全体の中長期的な成長・競争力向上や、利害関係者総体としての利益重視、これらを自国の長所とみなして、それらは以前どおりに保持したままでの改革であった。
企業不祥事の頻発や英米の機関投資家による「発言」がフランス企業にも押し寄せていたのは、日本企業と同様であった。しかし日本などと同様に「唯一絶対」の姿を想定することはなく、自国の実態にある優劣を分析したうえで統治改革を進めていったのである。




日本が「唯一絶対」の姿を想定しているかどうかは異論もあるかと思います。しかしコーポレート・ガバナンスというと、社外取締役や独立役員といったアメリカの発想を採り入れる話に直結したり、最近ではドイツの発想を採り入れて従業員代表(選任)監査役を導入しようという話になったりという話になりがちです。
この点は、以前の記事でも触れたように、「主権論」をもう少し考えてみる必要のあるところだと思います。

その「以前の記事」でご紹介した伊丹敬之教授は、「日本型コーポレートガバナンス」において、以下のように主張されています。


主権論とは、企業の主権は誰が担うのがもっとも適切か、という議論である。そして、資本を提供する株主と働く人々の両方が企業には共に重要であることを考えれば、それはその二つのグループの間でどのように主権を分かちあうか、という問題になる。カネもヒトも企業活動に必須である以上、主権をどちらかが排他的に持つのであれば、それは問題をはらむことになることは容易に想像される。したがって、主権論とは排他的議論ではなく、株主がメインになるのか、従業員がメインになるのか、あるいはまったく対等で行くべきか、といったことが議論の対象になるような問題領域である。
会社法の世界では、株主主権をあらかじめ想定してしまっているが、それだけでいいのか、という議論が必要なのである。
(太字部分は管理人によるものです)



最後の太字部分については、今回ご紹介している加護野忠男教授も同じ問題意識をもっていらっしゃるようです。
現状として、私たち企業法務担当者は、現に存在する会社法を前提として日々の業務を行っていかざるを得ないのですが、会社法の見直しがなされようとしている今この時期においては、少し立ち止まって「主権論」から考えてみることも有益なのではないでしょうか。
少なくとも私たちは会社法を、当事者として実際に日々利用しているわけですから、自社にとって或いは日本企業にとってどのようなコーポレート・ガバナンスがよりよい姿、より自社にフィットする姿であるのかを考えることが必要だと思います。


さて、この記事の冒頭で私は、「ただし第11章を除いて」、「はじめの一冊として適当なのでは」と書きました。
この点について少々補足しておきたいと思います。
第11章は「内部統制と会社統治」というタイトルで、これでもかと言わんばかりに内部統制のマイナスの側面について書かれています。
これは、本書が出版されたのが2010年3月30日と、まさに日本の上場企業が内部統制システムの構築に振り回された直後であった影響も大きいのではないかと思います。
例えば以下のようなものです。


実務家の間には、内部統制の制度は本当に必要かという疑念を抱く人々が多い。われわれも、法律に定められているような内部統制は必要のない制度だと考えている。それだけでなく、企業経営に害を及ぼす可能性すらあると憂えている。



内部統制への対応コストは平均1億6,000万円、そして小規模な会社ほど負担するコストは高くなっているとの調査も提出されている。



このように、いわゆる"J-SOX"導入初年度の情報やデータをもって、内部統制を否定的に捉えています。
この点に関して最近では、内部統制のレベル感も徐々に共通の認識として一定のところで落ち着いてきているように感じていますので、必ずしも負の側面ばかりが目につく状況ではなくなっているのではないかと思います。
確かに加護野教授がおっしゃるように、


会社統治制度それ自体には意味はない。統治によって経営をよりよくし、企業価値を高めることが目的である。統治のために実際に発生する金銭的なコストのみならず、制度を運営する過程で発生する時間や人材の無駄遣い、それによって奪われてしまう事業機会も、コストと考えるべきである。また、リスクに挑戦しないことほど、よりよい経営の妨げとなるものはない。よい経営を実現させるために必要なことの多くにはリスクがともなうためである。
内部統制、コンプライアンスの問題を経営学の視点から考えていくためには、こうした点への目配りも重要である。


という点には同意するのですが、「はじめの一冊」として本書を手にされた方にとって、内部統制に対する上記のような主張は、ミスリードの危険があるのではないかと思います。
これは私が勝手に「はじめの一冊」と言っているだけではなく、本書の冒頭においても、「本書は(略)学部生・院生諸君を読者対象としている」と書かれているので、内部統制への偏った見方が植えつけられることに若干の懸念があるわけです。


しかしながら本書を全体として捉えるとやはり、網羅性や説明のわかりやすさといった内容面、また、注釈、参考文献一覧、親切な索引といった形式面においても、コーポレート・ガバナンスの「はじめの一冊」としてお薦めしたい一冊です。
というわけで、このBlog の右端に「オススメ」として登録決定。
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